<コラム37> 2021.7

 

PCA・オープンダイアローグ・非暴力コミュニケーションを貫くもの

水野行範

  カール・ロジャーズのパーソンセンタード・アプローチ(PCA)に接してから40年を超える歳月が過ぎました。カウンセリングやグループワークだけでなく、高校や大学での授業形態、生き方にも大きな影響を受けてきました。

 ここ10年近くは、ロジャーズの同僚で年少の友人でもあったマーシャル・ローゼンバーグの非暴力コミュニケーションやフィンランドのオープンダイアローグから多く学んできました。非暴力で社会を変革する方法への関心は大学生の頃からの長年のテーマでもあります。

通信制高校でのホームルームや大学での「生徒指導論」の授業、スクールカウンセラーをしていた女子校の「別室登校コース」の「グループの時間」では、毎回、「最近、気持ちが動いたこと、考えさせられたこと」「最近、はまっていること」のふたつを聞くことから始めていました。僕自身も語ります。

教室や家庭での人間関係がうまくいかず、ふだんしゃべらない生徒どうしですが、ゲームやアニメについては話がはずみます。僕が知らない世界で、生き生きと個性的なひとりの人間として生きていることが伝わってきます。学校の勉強で徹夜すれば評価されるのにゲームなど自分の好きなことに時間を忘れて熱中していたら非難されてしまう理不尽さ。

エンカウンターグループのファシリテーターをする時は、「皆さんといい時間を過ごせたらいいと願っています。特にテーマはありませんが、話してみたいことや聞いてもらいたいこと、今の感じなど自由に話してみてください」と始めます。初めて参加する人がとまどっている時は、エンカウンターグループについて簡単な解説をして始めることもあります。

オープンダイアローグに接してからは、カウンセリングやグループワークを行う際に、「出会い」と「対話」を意識するようになってきました。

「クライエントについてスタッフだけで話すのをやめる」という原則、その元になっているダイアローグの核心でもある「他者に対する限りない敬意」、「未来語りダイアローグ」の方法などオープンダイアローグの理論と実践は、PCAの意義をあらためて確認するとともに、一歩、押し進めていく契機にもなりました。

学校現場においては、生徒本人がいない場で、不登校やいじめなどについて、話し合いが行われることが通例です。生徒本人のいない場で生徒の話をしないということは難しいところですが、その場合でも、その場に本人がいることを想定して話し合う慣習ができれば、生徒への見方や態度が随分と変わっていくのではないかと思っています。

さて、選挙で選ばれた政治家であれ、会社の上司であれ、一部の権力者が決定し、人々がそれに従うのが現代社会のありようになっています。

対話を積み重ねて相互理解を深めて、合意を形成していくやりかたは時間もかかり、まだるっこくもあります。でも、ひとり一人が個性ある人間です。「対話」を通して他者性を尊重してくのには時間がかかります。

未来に向かって、民主的な社会を形成していくためにも、エンカウンターグループでの体験がますます重要になってきていると考えています。