<コラム10> 2011.12.5


今こそパーソンセンタード教育を

水野行範

 

 今年の3月に定年退職をして、現在は、再任用教諭として、不登校体験生徒が半数以上を占める大阪の公立高校通信制課程に勤務している。

 

 先頃の大阪府知事市長選挙に勝った大阪維新の会は、競争原理に基づく教育基本条例を議会に提出している。そこでは、各学校の校長に、教員の5%を最下位段階として相対評価させ、2年連続最下位評価の教員は免職を含む処分の対象となる。3年連続で定員割れの高校は統廃合の対象である。元は教育委員会が引いてきた路線。その上を政治主導で列車が暴走しようとしている。大阪府では、2006年度から、教職員を5段階に勤務評定し、給与に差をつける「評価育成制度」(年間で、最大25万円近くの差がつく)が実施され、学校からは「同僚性」が失われ、疑心暗鬼が覆っている。

 

 実は、大阪維新の会が議会に提出している教育基本条例は、新自由主義(市場原理主義)と新保守主義的に基づく1988年英国サッチャー政権の教育改革法と2002年米国ブッシュ政権の「落ちこぼれゼロ法」を焼き直したものである。英国でも米国でも、学校の授業はテストの成績をあげるためのものになり、教師も生徒も余裕がなくなり追いつめられていった。学校間格差は広がり、「低学力校」と認定され、改善の余地がないとされた多くの学校は閉校に追い込まれ、成績下位校の教師は免職されていった。

 

 カール・ロジャーズは、“Freedom to Learn for the 80’s ”(1983)の中で、レーガン時代に顕著になった学校教育における官僚主義と右傾化を批判し、「信頼」と「尊重」に基づいたパーソンセンタード教育の意義を訴え、理論と実践を展開している。(ロジャーズの死後、増補改訂版が、“Freedom to Learn、Third Edition”(1994) 、畠瀬稔・村田進訳「学習する自由 第3版」コスモスライブラリー(2006)として発行されている)

 

 ロジャーズは、生徒の成長の3条件として、教師が、あるがままの人間として、仮面や見せかけをはずし学習者と関わること、学習者を固有の感情、意見、人格を持つ独立した人間として尊重すること、批判や評価ではなく、生徒の内面の動きを共感的に理解する力をもち、ありのままのプロセスを鋭く見抜くことをあげて、それら「真実性」「受容」「共感的理解」に気づき、体験する場としてエンカウンターグループへの参加をすすめた。

 

 ウオールストリートの「反格差」で集まった人びとにリーダーはおらず、みんなの意見が一致するまで話し合って決めていくという。
その流儀の中にエンカウンターグループの魂が生きている。