<コラム34> 2020.3

 

養護教諭に勧めたいBEG

 

石田 妙美

近年の学校現場ではいじめ、虐待、発達しょうがい、性の問題、アレルギーなど様々な課題が子どもたちを取り巻いている。養護教諭はその職務や保健室の特性を活かし、チーム学校のコーディネーターとしてこれらの問題を早期発見、早期対応することを期待されている。つまり、養護教諭は保健室対応だけではなく、児童生徒と保護者や担任はじめ学校関係者および学外の関連機関とをつなぐ役割を担っているのである。

保健室では単に傷病の応急処置をするだけではなく、傷病に対する保健指導、けがの再発を防ぐ安全指導の他、身体的な問題がないのに心が原因で症状が出ている場合には、今の気持ちや感情を聴き、どうしたいのかを共に考えるヘルスカウンセリング能力も必要である。保健室は、いつでもだれでも利用できる敷居の低さが特徴であるが、それゆえに時には授業間の休み時間に大勢の利用者が押し寄せることもあるので、養護教諭には、瞬時にトリアージ(緊急性、重要度の高い児童生徒を選別)する力も必要である。

私は以前から養護教諭を志望する学生、とりわけ『児童生徒の気持ちに寄り添える養護教諭』になりたいと思っている学生には、ベーシック・エンカウンター・グループ(BEG)への参加を勧めている。大学の心理・教育学系の講義で傾聴を学ぶ際にロールプレイを実施しているせいか、「自分は話をきくことが得意」と自己評価している学生が少なくない。しかし、実際に保健室対応を想定したシミュレーションをさせると、来室者の気持ちに寄り添った対応はほとんどできていないようにみえる。例えば「おなかが痛い・・・」と、腹部を痛そうに押さえ、たびたび来室する児童生徒に対して、「今日はどこが痛いの?朝ごはんは食べた?便は出た?・・・」とまた来たのと言わんばかりに淡々と尋ね、触診やバイタルサインの測定は割愛し、本人の気持ちに目を向けず、「次は何の授業?○○は苦手?・・」と質問攻めにしている学生が多い。

痛そうな様子から、まずは声をかけながら診察台かベッドに寝かせ、「おなかが痛いのね。どこがどんな風に痛むの?」と、気持ちに寄り添いながら触診やバイタルサインを測定し、アセスメントしてほしいものである。不定愁訴(症状や主訴があいまい)や保健室をしばしば訪れる児童生徒は、身体症状に心の不安定さが現れていることが多い。しかし、「今」の気持ちに寄り添いながら身体的疾患の有無をしっかり確かめてほしい。

気持ちに寄り添うためには、自分の話を聴いてもらう体験が不可欠である。また、どんな雰囲気なら安心して話ができるのかも経験してほしい。養護教諭になったら、児童生徒が安心して話ができる雰囲気を自分が作らなければならないからである。学生に勧めているBEGでは、グループメンバー全員でその場の雰囲気を作っていく。今の自分の在り方や自己理解を深め、無条件の積極的関心や共感的理解、他者理解を体験的に学ぶこともできる。10人近いメンバー一人ひとり理解しようとメンバーの様子(表情や姿勢、声のトーンなど)を観察したり、実際に声をかけてかかわったりする経験は、保健室に大勢の利用者が来室した際のトリアージや、保健室の入り口に来たものの養護教諭に声をかけることなくそのまま教室に戻っていく児童生徒を把握するのにも役立つ。BEGは、自分自身を振り返る大切な時間でもあるので、日ごろの人とのかかわり方がそのまま表れる。それゆえ、養護教諭としてコミュニケーションスキルを鍛える場として今後も推奨していきたい。