<コラム6> 2011.7.17


傾聴、内的枠組み、エンカウンター・グループ

増田 實

 

 <心理臨床的な他者への援助・支援や対人(人間)関係の豊かさへの促進には、“傾聴”が重要な要因のひとつになる、と言えます。

 

 河合隼雄も“傾聴”に関して、「根本は、相撲と同じことです。相撲の根本が‘押さば押せ、引かば押せ’というのと同じように、カウンセリングというのは、(クライエンとが)‘しゃべっていても聞いていなさい、黙っていても聞いていなさい’で、ともかく聞いていたらいいんだ、というぐらいの気持ちで始めたほうがいいのじゃないでしょうか」、「関心をもって聞いておったら、だんだん変わってきて、変わってくる中に光が見えてくる・・・」と述べています。 (『カウンセリングを語る』創元社)

 

 カウンセリング面接は、他者への心理臨床的援助・支援に際してその中心に位置づけられる働き(機能)である、と言えますが、その核心になるのは“傾聴”である、と考えられます。したがって、その援助・支援を適切にすすめていくには、この“傾聴”を的確・適切に‘体得’することが先ず求められ、また、さらに求められます。>

 

 以上は、“傾聴”に関するワークショップの開催案内に加えた勧誘文からの抜粋である。

 傾聴に関しては、また、「共感」と関連したロジャーズの陳述がさらに示唆的である、と思われるので、その1部を以下に記したい。

 

「・・・聴くことを一生懸命続けていると、次第に相手の内側に入っていくことができ、相手がどう変わっていくか、相手の世界のなかでどのように感じられているか がこちら側に感じられるようになってきます。」

 

「・・・私がかれ(相手)のなかにおり、楽にいられるようになるにしたがって、かれも自分の世界のなかで、自分で探せるようになります。・・・かれ自身で自分の世界の端から端までよく見えないところをより見えるように、見ようとし始めるでしょう。」

 

「・・・私は、私の直観(intuition)が非常に効果的である、・・・共感的な感受性(sensitivity)がセラピイのもっとも中心的なことなのです。それがセラピイのあらゆる条件をカバーしている、と思えるのです。・・・感受性豊かな同伴者(sensitive companion)になること、心をもって聴くこと、まさにそのとりです。」 (『カール・ロジャーズとともに』創元社)

 

 そして、この傾聴は、話(事実の説明)を聞くに留まらず、相手の内的世界の動き・その表明(内面の放し)をそのまま受け取り、そのまま伝え返す、という積極的な対人行為である、と言えるが、それは、こちら側の内的枠組み(inner frame of reference)がより大きくより柔らかくなっていなければなし得ない、と考えられる。 

 

 この内的枠組みは、その個人がそれによって支えられており、その時々の思考や判断、好嫌や意欲、行動などの内的基準になっている、とみられるが、その枠組みの拡大化・柔軟化への道(‘体得’)には、体験的な対人的自己研鑽(稽古)の継続に依拠する、と思われる。そして、この稽古に相当するのが、ベーシック・エンカウンター・グループ(BEG)である、と言えよう。

 

 BEGには、さまざまな可能性が含まれている、と認識しているが、近年わたしは、ロジャーズがカウンセラー・トレーニングのひとつとして創出したその初期の意味に視点を合わせ、BEG体験をとおしての個人(参加者)の内的枠組みの拡大化・柔軟化(豊かさ)に主眼をおいてそれを開催している。そして、エンカウンター・グループへの参加勧誘に際しても、ここにポイントをおいて参加を求めている。

 

 以下に、その勧誘文の1部を示しておこう。
<心理臨床に関する援助・支援の仕事をすすめるにあたっては、自己自身を見つめ、その内的枠組みをよりいっそう豊かにする(拡大化し、柔軟化する)ことが求められます。それには、トレーニング的な生の対人関係の場に身をおき、そこでの“体験”(対人的体験)が有効・効果的である、と言えます。

 

 この対人的体験の主要なひとつと考えられているのが「エンカウンター・グループ」(BEG)ですが、これへの参加体験は、それ自体がその人自身の内的な根っ子にあたる部分を培い、その内的枠組みの拡大化・柔軟化などに結びつく、と思われます。・・・>